2026-05-07
【コラム№63】猫にも5月病はあるの?
こんにちは。獣医師の小久保です。
新年度が始まってから早くも1か月余りが過ぎ、連休も明けて少し落ち着いてきた頃かと思います。会員の皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。4月は入学や就職、転勤や異動など、生活の変化が多い季節です。新しい環境で頑張ってこられた方の中には、この時期になって少し疲れを感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身も新人の頃は覚えることが多く、命を預かる現場も春は何かと慌ただしく、いわゆる5月病を意識する余裕もあまりありませんでした。今思えば、それだけ毎日必死だったのだろうと思います。
ところで「5月病」という言葉は昔からよく耳にしますが、実は正式な病名ではありません。新年度の始まりから1か月ほどたった5月頃に、無気力、疲れやすさ、不眠、食欲低下などの不調が出やすいことから使われる俗称です。もとは大学の新入生が連休明け頃から無気力になる状態を指す言い方として広まり、その背景には1970年代頃から論じられてきた大学生の無気力状態、いわゆる「スチューデント・アパシー」の議論があるとされています。
そこで今回は、「猫にも5月病はあるの?」というテーマでお話ししたいと思います。
結論から申しますと、猫に「5月病」という病名があるわけではありません。ただし、春の環境の変化や生活リズムの変化によって、猫がストレスの影響を受けることは十分にあります。猫はもともと変化をあまり好まない動物ですので、飼い主様の生活時間の変化、来客が増えること、模様替え、新しい家具、新しい家族や新しい猫を迎えることなどが、思った以上に負担になることがあります。人から見ると些細に思えることでも、猫にとっては「いつもと違う」ことそのものが落ち着かなさにつながる場合があります。
では、猫ではどのような形でその変化が現れるのでしょうか。人のように「やる気が出ない」と言葉で表すことはできませんが、普段より隠れていることが増える、遊ばなくなる、食欲が落ちる、甘え方が変わる、毛づくろいが増える、あるいは逆に毛づくろいをしなくなる、トイレ以外で排尿してしまう、といった形で表れることがあります。飼い主様からすると「少し様子が違うかな」と思う程度でも、猫にとっては大事なサインであることがあります。
特に注意したいのは、おしっこに関する変化です。猫ではストレスが下部尿路のトラブルに関係することがあり、頻繁にトイレに行く、尿量が少ない、血尿が出る、排尿時につらそうにする、トイレ以外で排尿するなどの症状が見られることがあります。とくに雄猫では尿道が詰まってしまうと急に具合が悪くなることもありますので、「何度もトイレに入るのに出ていない」「いきんでいる」「落ち着かない」といった様子がある場合には、早めに動物病院へ相談していただきたいと思います。
ご家庭でできることとしては、まず猫の生活リズムを急に変えすぎないことが大切です。食事の時間、照明のつく時間、遊ぶ時間などを大きく崩さないこと、静かに休める場所や隠れられる場所を確保すること、トイレや水飲み場、食器の場所を頻繁に変えないことは、猫にとって安心につながります。連休明けのこの時期は、人の生活のリズムも少しずつ平常に戻っていく頃ですので、猫にとっても「いつもの毎日」を取り戻しやすいようにしてあげるとよいと思います。特別なことをたくさんするよりも、落ち着いて過ごせる環境を整えてあげることが何より大切です。
一方で、食欲低下が続く、ずっと出てこない、何度も吐く、排尿の様子がおかしい、急に怒りっぽくなった、触られるのを嫌がるようになったといった場合には、単なるストレスと決めつけない方が安全です。猫は体調不良を隠すことが多いため、「少し疲れているだけかな」と思っていたら別の病気が隠れていた、ということもあります。とくに食べない、尿が出ないという状態は早めに相談したいサインです。
春から初夏にかけては、人にも猫にも少し疲れが出やすい時期なのかもしれません。猫に5月病という病名はありませんが、環境の変化に影響を受けて、体調や行動に変化が見られることはあります。「最近少し元気がない」「隠れていることが増えた」「トイレの様子が違う」そのような小さな変化がありましたら、どうか早めに気づいて見てあげてください。日々の変化をやさしく見てあげることが、猫が安心して過ごせる毎日につながるのではないかと思います。
